紅白読書の腕前本合戦〜名古屋場所二場所目

3月7日から29日まで、ブックマークナゴヤというイベントが開催されていました。
いろいろな企画のうちのひとつに、『紅白読書の腕前本合戦〜名古屋場所二場所目』 というものが。
柴田元幸さん(白組)と 岸本佐知子さん(紅組)が本を20冊づつ選んでそれぞれにコメントをしているのです。
白組は丸善名古屋栄店で、紅組のほうは紀伊国屋書店名古屋名鉄店で、と発表する会場が別べつなのもいいアイディアだと思います。
どんなセレクトがされているのか知りたくて両方の書店に足を運ぶ人もいるはずです(たとえば、私)。
ヤホーで検索してみたのですが(あれ?)どこのHPにも載っていないようなので、以下に記しておくことにします
ブックマークナゴヤのブログ<イベント・展示レポート>で一部は紹介されていますが、全部の本が書かれているところはないようです)。

まず、紅組・岸本さんの20冊(組)です。
先ほどのブログで実行委員会のかたが報告していらっしゃるとおり、紀伊国屋には「本のタイトルが載ったチラシ」が置いてありましたので、1部いただいてきました。これを丸写しします。

  『虚航船団』筒井康隆新潮文庫
     登場人物は文房具、彼らが宇宙船に乗って向かう先はイタチの星。壮大な世界史の騙〔ルビ/かた〕り直し。筒井康隆はこれ一作でノーベル賞に値すると本気で思うのです。
  『ロマン』1,2 ウラジーミル・ソローキン、国書刊行会
     この世紀の奇書について何か一言でも言うことはネタバレになるので、ただ「読んで、腰を抜かしてください」としか申せません。
  『田紳有楽 空気頭』藤枝静男講談社文芸文庫
     飄々とビザールなおじいさん藤枝静男。池の底で繰り広げられる金魚と湯飲み茶碗の恋、しかも子供まで!
  『エクリチュール元年』三浦俊彦青土社
     スタインベックのほぼ全作品の登場人物には、じつは鼻の穴が三つあった!
  『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子筑摩書房
     すれっからしのこの私が青春小説に滂沱の涙。勝手に太鼓判を押している津村記久子の、素晴らしいデビュー作です。
  『ぼくのともだち』エマニュアル・ボーヴ、白水社
     史上最ウザ語り手の「ぼく」に爆笑。こんなニート小説を八〇年も前に生み出したフランスもすごい。
  『真鶴』川上弘美、新潮社
     幽玄で不気味で凄いくらいに美しいです。謎が謎のまま心を揺さぶります。『マルホランド・ドライヴ』を好きなら絶対。
  『きつね月』多和田葉子新書館
     多和田葉子といえば”越境”ですが、言葉を楽器か玩具のようにして戯れる、こっちの多和田葉子も私は大好きです。
  『インディアナインディアナレアード・ハント朝日新聞社
     孤独と静寂が青い炎となって燃えるがごとき文章。主人公の妻の手紙の狂った美しさが圧巻です。
  『俺、南進して。町田康荒木経惟、新潮社
     すべての町田康作品は「地獄めぐり」だと思うのです。なかでもこれはマイフェイバリット地獄。
  『悪魔の涎・追い求める男』フリオ・コルタサル岩波文庫
     高速道路が渋滞しすぎてそのまま住んじゃったり、夢が続き物になっていてどんどん怖くなっていったり。子供の発想と大人の文体の奇跡の融合、一生ついていきます。
  『ギンイロノウタ』村田沙耶香、新潮社
     狂気を、その内側からこれほど鮮やかに冷静に描いた小説を、私は他に知りません。
  『母の発達』笙野頼子河出文庫
     純文学でこんなに腹がよじれていいのか、と心配になるくらいの面白さ。
  『阿修羅ガール舞城王太郎新潮文庫
     マイファースト舞城にしてマイベスト舞城、ついでにマイ戦後文学ベストテンの一つ。
  『ジャンピング・ベイビー』野中柊新潮文庫
     読みながら、人物たちといっしょにリアルタイムに鎌倉の夕暮れの中を歩いていく感じ。甘くない野中柊の隠れた傑作です。
  『わたしたちに許された特別な時間の終わり』岡田利規、新潮社
     収録作「わたしの場所の複数」は実験的なのに血が通っていて、不気味なのに切実、暗いのにほの明るい、つまりは私の理想の小説。
  『不意の声』河野多恵子講談社文芸文庫
     途中、乱丁かと思う箇所があります。でも違うのです。その意味に気づいたときの戦慄。
  『眼ある花々』開高健、中公文庫
     日本語を猛獣使いのように鍛え、慣らし、跳躍させ、吠えさせる作家の技に、何度でも目頭が熱くなります。
  『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン河出文庫
     大学時代にこの本と出会っていなければ、たぶんぜんぜん別の人生を歩んでいたでしょう。
  『ある家族の会話』ナターシャ・ギンズブルグ、白水uブックス
     時代を歌で振り返るように、家族の歴史を”会話”を軸につづっていく試み。これほど一冊の本を読み終わりたくないと思ったことはありません。

『真鶴』は新潮社ではなく「文藝春秋」だと思いますが、先ほど書いたとおり丸写ししました(「騙〔ルビ/かた〕り直し」も原文ママ)。

さて、柴田さんのほうです。こちらには「本のタイトルが載ったチラシ」はありませんでしたので、一覧表のまえでメモをとりました。コメントまで書き写すのは面倒だったので作者(編者)・題・出版社のみ(この順番でした)。

  伊井直行 濁った激流にかかる橋 講談社文芸文庫
  カズオ・イシグロ 充たされざる者 ハヤカワepi文庫
  レーモン・クノー 文体練習 朝日出版社
  ゴーゴリ 鼻/外套/査察官 光文社古典新訳文庫
  小沼純一 魅せられた身体 青土社
  ロレンス・スターン トリストラム・シャンディ 岩波文庫
  セルバンテス ドン・キホーテ 岩波文庫
  田口犬男 ハッシャ・バイ 思潮社
  中村保男編 英和翻訳表現辞典 基本表現・文法編 研究社
  長谷川健郎写真集 奇妙な凪の日 左右社
  ひさうちみちお パースペクティブキッド 青林堂オンデマンド版
  ニコルソン・ベイカー ノリーのおわらない物語 白水Uブックス
  牧眞司 世界文学ワンダーランド 本の雑誌社
  ジャン・マケーレブ マケーレブ恒子編著 動詞を使いこなすための英和活用辞典 朝日出版社
  エリック・マコーマック 隠し部屋を査察して 創元推理文庫
  マット・マドン コミック文体練習 国書刊行会
  宮本孝正 阿修羅の辞典 みすず書房
  四元康祐詩集 思潮社
  エドワード・リア ナンセンスの絵本 岩波文庫
  綿貫陽 マーク・ピーターセン 表現のための実践ロイヤル英文法 旺文社

持ち帰り用のチラシは便利だと思います。それに、紀伊国屋のほうが展示が見やすいように思いました。
というわけで、どうでもいいことですが一応「紅組の勝ち!」ってことで終わりにします。